乾留・蒸留 の実験(2)
6. 発煙硝酸 と 発煙硫酸: 腐食・やけど注意
前回(16.の2. 硝酸)では、濃硫酸に水を加えて蒸留したが、今回は、濃硫酸(97%)のままで加えて発煙硝酸を蒸留し、また、そのあと残渣を乾留して 発煙硫酸を得る。
硝酸ナトリウム(チリ硝石、NaNO3、M=85.0)20gをレトルト(125cc)に入れ、薄めていない、等量の、濃硫酸(97%H2SO4、M=98.1、ρ=1.84)23g = 13ml を加えて加熱、蒸留すると、硝酸の一部が
NO2 と NO に分解して、純硝酸に二酸化窒素(NO2)がいくらか溶け込んだ、黄色の
発煙硝酸ができる。 (NO2量が少ないので赤色まではいかない。 栓にしたフッ素ゴムも膨潤する)
NaNO3 + H2SO4 → HNO3↑ + NaHSO4
残渣はほぼ 硫酸水素ナトリウム(NaHSO4、M=120.6、mp.315℃)で、加熱用具をマッフルに取り換え強火で加熱を続けると、315℃以上で脱水して、ピロ硫酸ナトリウム(二硫酸ナトリウム、Na2S2O7、M=222.1、mp.401℃)になり、460℃以上で分解して
三酸化硫黄(SO3、M=80.1、bp.45℃(γ)、mp.16.8℃(γ)、62.3℃(α))を放出して、太試験管内の水に溶けて 発煙硫酸ができる。 (=H2SO4 + SO3。 ガラス棒につけて空中に出すと白煙を上げる。
水を加えると音を立てて発熱する。)
2 NaHSO4 → Na2S2O7 (ピロ硫酸ナトリウム) + H2O↑ ・・・ >315℃
Na2S2O7 → SO3↑(三酸化硫黄) + Na2SO4 ・・・ >460℃
( cf. CuSO4 (胆礬・たんばん) → SO3↑ + CuO ・・・ >650℃ で、もっと高温。
昔、錬金術師が硫酸を作った方法)
(* このときバーナーでかなり加熱しなければならず、ホウケイ酸ガラス(軟化点525℃)にダメージを与え、冷却後ひびが入って壊れた。(中国製のレトルト) 石英試験管にした方が良いと思われる。)
7. ジエチルエーテルの作成: 濃硫酸: 取扱い注意、エーテル:引火注意
ジエチルエーテル(エーテル、C2H5・O・C2H5、M=74.1、ρ=0.71)は低沸点(bp.34.6℃)で非常に引火性が強い(発火点:160℃)ので、火を使わず、電熱器(600Wニクロム線をφ6エクシルチューブに通したものを フラスコの形状に巻く。 トライアック電源: 電流3〜5A、再蒸留時2〜3A。)を自作しておいた。
* 今回 濃硫酸を多く使うので、取り扱いには注意。 調合はすべて流しで行い、こぼしたり付着した場合すぐに流水で洗うことができるよう配慮する。試薬ビンの口、フタ等に付着した硫酸は、ティッシュでさっとふき取り、トイレに捨てる。 実験が終わった後の廃液は、多量の重曹(300−500gくらい)で中和してから流しに捨てる。
エタノール(C2H5OH、M=46.1、bp.78.4℃、ρ=0.79) 150mlを蒸留用のフラスコ(300−500ml)に入れ、濃硫酸(H2SO4、97%、M=98.1、ρ=1.84) 70mlを メスシリンダーに量り入れ、少しずつ流水で冷やしながらフラスコに加え、溜りが無いようによく振り混ぜておく。
この混合比率は重要で、エタノール:硫酸の比率が 2.2:1以上ならば 100℃以下で沸騰し流出液にエタノールが多く混じり、1:1以下ならば
適正温度の135−140℃では沸騰せず150℃以上で沸騰し エチレンガスが発生し、また160−180℃以上では
硫酸が分解して液が真っ黒になり 亜硫酸ガス(二酸化硫黄、SO2)が発生する。
0−200℃の棒温度計を液に入れて、温度を測りながら蒸留する。 120℃あたりから泡が出てエーテルが蒸発し始め、しばらく温度が安定する。その後135℃まで続けると、フラスコの液の色は黄色がかってくる。そこで一旦加熱をやめて冷却する。(1回目の留分:
約65ml)
冷えてから 追加のエタノール 50mlを加えて、2回目の蒸留をする。 115℃あたりから沸騰して 140℃で止める。 残液の色は褐色となり、亜硫酸ガスのツンとしたにおいがしてくるので、3回目の蒸留は行わない。(2回目の留分:
約65ml)
精製には、1回目と2回目の留液を蒸留フラスコに入れ、SO2を除くため数gの苛性カリ(KOH)の固形(あるいは石灰)を加えて、再蒸留して10−20ml残し、34−60℃の留分を取る。(沸点上昇する) ・・・ 約110mlできた
保存する場合は、爆発性の過酸化物生成防止のため、マグネシウム・リボンあるいは鉄線を入れて、冷暗所に置く。
反応式は、エタノールの硫酸エステルがまずできて、もう1分子のエタノールと反応して、エタノールと硫酸になるので、硫酸は脱水触媒の役割になる。
C2H5O・H + HO・SO2・OH (硫酸) → C2H5O・SO2・OH (エチル硫酸) + H2O
C2H5・HSO4 (エチル硫酸) + C2H5OH → C2H5・O・C2H5 (ジエチルエーテル)↑ + H2SO4
(* あるいは、酸が解離してできたヒドロニウム・イオン H3O+ を用いて、
C2H5OH + H3O+ → C2H5OH2+ + H2O、 C2H5・OH2+ + C2H5・O・H(酸素原子:求核性) → C2H5・O・C2H5↑ + H2O + H+ (水と酸素原子が置換反応))
この反応は可逆的なので、右に進ませるためには、生成したエーテルを蒸留によって連続的に系外に除去する必要がある。
8. エチレンの実験;
硫酸よりも強力な脱水剤である 五酸化リン(五酸化二リン、P2O5)に、エタノール(C2H5OH)を加えて温めると、エーテルを通り越して エチレンガスが発生する。 (硫酸で脱水する場合は、苛性ソーダ液を通して SO2を除く。)
エチレンは、その活性な二重結合により、ハロゲンの付加反応、過マンガン酸カリウムによる酸化反応が起こる。
CH3・CH2・O・SO2OH (エチル硫酸) → CH2=CH2 (エチレン) ↑ + H2SO4 (at. 160℃)
9. メントールの水蒸気蒸留:
ハッカに含まれる揮発性成分の l−メントール((−)−メントール、C10H20O、mp.42−45℃、bp.212℃、ρ=0.890、M=156.27)は、沸点が高く通常の方法では蒸留できないので、水蒸気を吹き込んで水と共に蒸留する
水蒸気蒸留 によって製造される。 この方法は、カンファ―(しょうのう)などのテルペンや 植物からの精油(エッセンシャルオイル)等の蒸留に、現在でも行われている。 (一般的に、高沸点の有機物は、減圧蒸留する。)
実験では、ハッカの葉は高価であり、かなり多くの量を処理しなければならないので、代わりに、l−メントール(中国産・天然ペパーミント製) 5gを 100mlフラスコに入れて、2cmくらい上から水蒸気を吹き込むことにした。
約30分ほど吹き込むと、ハッカ油はほぼ全部が、水と共に受け器のフラスコに蒸留された。 時々、余分な水が溜まらないように、フラスコをアルコールランプで補助的に加熱する。 受け器の冷却水は温まるので、時々冷水と交換する。
水よりも軽いので上に浮き、過冷却するので、10℃くらいまで冷やすと水に浮いたまま結晶する。
* 現在、l−メントールは かなりの部分が合成されている。(年間40万トン、不斉合成の工程を含む。ee=94%。 メントールには 8個の立体異性体があり、官能基同士の反発により、l
(−)メントールがエカトリアル(椅子型)となって最も安定で作りやすい。) 歯磨き、ガム、清涼剤等の日用品、食品や医薬品に幅広く用いられていて、ニホンハッカ(薄荷)や
ペパーミントなどの天然品は少なくなっている。
** 共沸混合物: アニリン bp.168.0℃、水との共沸点 98.5℃、 ニトロベンゼン:
bp.210.8℃、水との共沸点 89.6℃、 フェノール: mp.182.0℃、水との共沸点
99.5℃、 トルエン bp.110.0℃、水との共沸点 84.1℃
10. 黄リンの生成: 猛毒、発火注意、 爆発注意
黄リン(白リン、P、mp.44.2℃、bp.280.5℃)は、燐灰石(Ca3(PO4)2)、コークス(C)、珪砂(SiO2)の混合物を アーク電炉で1400℃程度に強熱して、蒸留して製造される。 リン酸カルシウムやリン酸ナトリウムを炭素で還元する方法は、かなりの高熱源が必要で、実験室的に手軽に作れるものではない。
そこで、もっと低温で リンを生成するために、五酸化リン(五酸化二リン、P2O5)を石英試験管の底に入れ、その上層に黒鉛紛(C)を詰め込み、上の黒鉛粉の方から 高周波炉で1000℃くらいに加熱して、少しずつ 試験管を上げて、五酸化リンの蒸気に触れさせて還元し、水の入った別の試験管に導く、という実験を行なった。石英管上部の結合部は写真と異なり、フッ素ゴム栓使用でうまくいった。 ((注意) 下から加熱すると、蒸発した五酸化リンが黒鉛層に詰まり、内部が高圧になって大爆発するので
要注意 ・・・ 一回 やった!保護ケースを壊し、石英管が粉々に吹き飛んだ)
生成したリン蒸気は、結構 途中の管内に凝結して 蒸留されないので(管内が赤黄色になる。フッ素ゴム栓を取ると激しく燃え上がる)、一度冷えた後
バーナーで管内を再加熱して追い出すと、結構採れた。(黒鉛が混じり黒くなる)
2 P2O5 + 10 C → P4 ↑ + 10 CO ↑
* 五酸化リンの凝結による爆発や、発生するCOと共に リンの大部分が散逸してしまうことが問題である。 外国の実験例にように、 ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO3)n)34g、SiO2
20g、NaCl 4g、Al粉末 15g を混合したものを、取り出し管のついた金属容器に入れて、バーナー炉で加熱・蒸留する方法で、さらに低い温度(700−800℃)で安全にできると思われる。
ユーチューブのビデオより、試験管実験で加熱すると、一回緩やかに火がついて燃焼するように
反応する。
§ 系外への脱出:
右辺の反応物が蒸気圧の低い揮発性である場合、通常では起こりえない反応が起こり、生成物が系外に抜けるほど
反応が右に進む事が起こります。
たとえば、ポーリングの電気陰性度( ・・・ 結合エネルギーの実測値より計算、相対値)によると、
Cs(0.79) < Rb(0.82) < K(0.82) < Ba(0.89) < Na(0.93) < Sr(0.95) < Li(0.98) < Ca(1.00) < Mg(1.31) < Al(1.61) < Zn(1.65)
< Fe(1.83) < Cu(1.90) < Ni(1.91) < Ag(1.93)
< Hg(2・00) < Pt(2.28) < Pb(2.33) < Au(2.54)
< C(2.55) < S(2.58) < N(3.04) < Cl(3.16)
< O(3.44) < F(3.98) のようになります。
しかし、 塩化カリウム(KCl)と 金属リチウム(Li、bp.1342℃)を共に 800℃以上に加熱すると、金属カリウム(K、bp.758.8℃)が気相に追い出されて、蒸留されます。
KCl + Li → K ↑ + LiCl
(cf. イオン化傾向は 常温、かつ 水溶液中 という特殊な条件下での話: Li(−3.045V)
> K(−2.925V) > Ba(−2.92V) > Ca(−2.84V)
> Na(−2.714V) > Mg(−2.356V) > Al(−1.676V)
> Zn(−0.7626V) > Fe(−0.44V) > Ni(−0.257V)
> Pb(−0.1263V) > H(0V) > Cu(0.340V) > Hg(0.7960V)
> Ag(0.7991V) > Pt(1.188V) > Au(1.52V))
この蒸留法は、亜鉛の精錬や、サマリウム、ユーロピウムなどの希土類の精製にも用いられます。
また、沈殿・析出も、溶液系からの系外脱出の一つで、反応が右に進みます。 たとえば、ソルベー法(アルカリ金属の実験(1)A)による炭酸水素ナトリウムの沈殿:
NaCl + NH3 + CO2 + H2O → NaHCO3
↓ + NH4Cl
共沸混合物の分別蒸留は共沸点止まりで、難しくなります。 たとえば、エタノールの OH基は
水との親和力が大きいため、共沸混合物を形成します。(水との共沸温度78.2℃、水の質量分率0.040(=4wt%)、96%止まり) 分離は、まず生石灰(CaO)で脱水してから、上澄みの純エタノール分を蒸留する、あるいは、ベンゼンを加えて精留します。
さて、脱出と言えば、クリスチャンのこの世からの脱出を連想させます。
人類には、アダムとエバの時代から 「原罪」の性質が入ってしまい、この世は
悪魔の支配下に堕ちてしまいました。 しかし神は、御子キリストの十字架の贖いによって 悪魔のくびきを壊して、信じる私たちを無条件に救ってくださいました。 私たちクリスチャンを、罪のこの世から 贖い出してくださったのです。
ローマ時代の迫害では、”キリスト者の血は種” となって、殉教者たちが増えれば増えるほど 新たなキリスト信者たちが増えていき、おおよそ支配者たちの思惑と逆のことが起こりました。 殉教者たちの霊は、御使いたちによって直ちに天に携え上げられます。
世の終わりには、罪の権化である「反キリスト」が現れ、一時的に全地を支配して、世界中のキリスト信者たちを大迫害する暗黒の時となりますが、その直後、主イエス・キリストが再臨されます。 その時、信じて聖霊を受けているクリスチャンたちは、体が栄化され、天に引き上げられます。 一方、この地上には さばきが行なわれます。
「私たちは神から出た者であり、全世界は悪しき者の支配下にあることを、知っています。」 (Tヨハネ5:19)
「それから、私たち、生き残っている者たちが、同時に彼らと共に、雲の中に引き上げられ、空中で主に会うのです。こうして、いつも主と共にいることになります。」(Tテサロニケ4:17)
「それは、最後のラッパの響きと共に、まばたきの一瞬の間にです。 それは、ラッパが吹き鳴らされ、死人たちは朽ちない者によみがえらされ、そして私たちは変えられてしまうからです。」(Tコリント15:52)
「いのちがけで逃げなさい。 うしろを振り返ってはいけない。 この低地のどこででも立ち止まってはならない。 山に逃げなさい。 さもないと滅ぼされてしまう。」
(創世記19:17)